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記者の目:築地市場 都は移転だけ考えるな 【毎日新聞 7月3日より】

2008年07月03日 13:29

記者の目:築地市場 都は移転だけ考えるな=市川明代


 水産物市場では我が国最大の取扱量を誇る東京都中央卸売市場築地市場(中央区)。老朽化などを理由とした江東区豊洲地区への移転計画が、土壌や地下水から高濃度の有害物質が検出され揺れている。豊洲は東京ガスの工場跡地で、廃液が地下に染み出して汚染した。都は土壌を入れ替えるなどの方法で移転を強行する構えだが、その事業費は1000億円規模に及ぶという試算もある。

 果たしてそれで「食の安全」は確保されるのか、巨額の公費を投入してまで移転する必要があるのか、などの声が上がり、計画そのものの是非が問われている。こうした議論は当然だが、ここでは違う観点から移転の妥当性を考えたい。

 昭和10(1935)年に開場した築地市場は、時代とともに取扱量が増えて過密化し、昭和60年代に再整備計画が浮上。取扱高がピークに達した90年、現在地での建て替え工事がスタートしたが、「営業に差し障る」と仲卸業者らが抵抗、97年に中断した。そこで持ち上がったのが豊洲への移転計画だ。

 都の論理はこうだ。再整備計画が始まった当初と比較し、築地の客は魚屋や小料理店から質より量を求めるスーパーに移行。そのため、大型化したトラックを収容する駐車場、冷蔵設備など、時代に合ったインフラ整備が必要だ。狭い築地(面積23ヘクタール)での営業を続けながらの建て替えは工期がかかり建設費も膨らむため、豊洲(同40ヘクタール)に移転し、築地の売却益で採算を合わせるしかない--。

 これに反対しているのが、主に仲卸だ。現在地での建て替えか移転かの議論が出始めた98年、仲卸業者で作る組合が市場内の全仲卸業者を対象に行った調査では、全体の58%が移転に反対。その数は、豊洲の土壌汚染発覚後の昨年4月、移転反対業者でつくる団体が行ったアンケートで7割超へと膨れ上がった。

 築地で扱う水産物は、集荷業者が産地市場を通じて集め、競りや相対取引によって仲卸らに卸し、仲卸が市場内の店舗で小売店などに販売する。「目利き」と呼ばれる仲卸は、マグロや貝など得意分野を持ち、鮮度や質、生産や消費の動向を見定めて適正価格を付けてきた。

 自転車で行き来できる距離にある銀座の小料理店やすし屋が「ネタ」を購入するのも、築地の仲卸からだ。それだけに仲卸には、地の利を背景に、自分たちが「日本の食文化」を作ってきたという誇りがある。

 一方、スーパーは売れる品を仲卸に大量発注したり、競りに顔を出して相場だけつかみ、その情報をもとに産地から直接買い付けたりする。切り身加工やパック詰め、配送など、手間やコストのかかる仕事を仲卸に求めるケースも多い。

 すし屋などを顧客とする老舗の仲卸業者(28)は「築地だから来てくれる客がいる。豊洲まで来られるのはスーパーだが、スーパーだけ相手にすると、商売は成り立たない」と言う。築地から南へ約3.5キロの豊洲は、その直線距離以上に交通が不便だ。このため、「すし屋などの足が遠のき、顧客がこれまで以上にスーパーへとシフトする。本来の仲卸とは異質な存在に成り下がる」と危機感を抱く業者も少なくない。

 大量消費に乗らない魚をどの店なら扱え、調理できるのかを知る仲卸は、国内の生産者を守る上でも貴重な存在だ。国内漁獲量は減り、輸入魚さえ海外の購買力に押され始めている。日本の魚食文化を絶やさないためにも、都はもっと仲卸の声に耳を傾けるべきだ。

 もちろん、今のままでいいというわけではない。都が市場利用者を対象に行ったアンケートでは、小売りの鮮魚店や飲食店からも「築地はブランドの上にあぐらをかいている」「衛生面を改善すべきだ」という意見があった。仲卸も現在地建て替えを望むなら、今度こそ一致協力するという気構えを示すべきだろう。

 築地の取扱量は、ピーク時の7割。いまなら工夫によって、営業を続けながらの建て替えも可能ではないか。今後、漁獲量の減少が予測される中、都が計画する40ヘクタールの新市場は過剰になりはしないか。都には豊洲の土壌汚染対策にかけているのと同じエネルギーを、現在地建て替えの検討にも向けてほしい。1日に300~500人の観光客が訪れる東京の食文化の拠点を守るためにも。(東京社会部)

毎日新聞 2008年7月3日 0時02分

http://mainichi.jp/select/opinion/eye/news/20080703k0000m070145000c.html

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